お肉ってどこで買いますか? スーパーという人が圧倒的に多いだろう。あらかじめパックされた肉を自分で陳列ケースから選び、買い物カゴに放り込むというのが、普段のお買い物のルーティンかもしれない。
でも行きつけの肉屋さんがあったら、買い物はちょっと違ってくる。今日の食卓に最適な肉を、プロの目で選びカスタマイズしてもらえるのだから。
まつ蔵精肉店。創業から約3年、「至極真っ当なお肉屋さん」と、団地の外から通うお客さまも多い。
店主の松井さんにお話を伺いました。(聴き手: 村上ハルミ/鮮魚村上)
(村上) -創業される前はどのようなお仕事だったんですか?
(松井) 学校卒業後、建築関係の仕事を経て飲食業界に移りました。焼肉店での仕事が7年。その後精肉店に転職し、10年精肉調理に携わりました。それから独立して葛西に焼肉店を開店し、その5年後にこのお店(精肉店)を始めました。
-焼肉店から精肉店に転職したのはなぜ?
焼肉店はとても楽しかったんですよ。今までで一番楽しい職場だったんじゃないかな(笑)。小さい店だっだけどスタッフも7、8人いて、人間関係にも恵まれていたんです。ただ仕事がきつかった。朝4時まで働いていましたから。在籍中に結婚し、子供も生まれたんです。奥さんも仕事をしていましたから、子供の送り迎えは主に自分がやっていたんですけど、このままでは身体が持たないなと…。そこで昼間の仕事をと、精肉店に転職しました。
-人形町の老舗精肉店ですね。
ここで得た経験は大きいですね。凄い肉も色々触らせてもらってね。今まで見ていた肉はなんだったんだろうって感じですよ。もう毎日、肉の勉強を必死にして。肉を切る量も半端じゃないですからね。年末は1週間泊まり込みで、ただひとすら切っていました。そういうのがあったから何でもできるようになったのかな。
-10年経験を積んで独立し、焼肉店を開業されました。
焼肉店にいた頃も漠然と独立は考えていたんです。でも家庭を持って精肉店で安定した仕事について、創業の気持ちはいつしか薄れてしまった。きっかけは東日本大震災ですね。こんなに突然この世を去ることもあるんだな、何があるかわかんないなって。
-それで中葛西にお店を始めたと。
最初は西船橋で開業する予定だったんです。知り合いが辞めるからお前そこやれよと、見に行ったら結構人も通るしいいなと。で、精肉店を退職して、業者も決めて開店準備を始めた。そしたらいざ大家さんと契約することになったら、「そんなの聞いていない」って。どうも勝手に大家さんに話さないで話進めていたみたいなんですよね。聞いてない、出ていってくれと。ええーどうしよう、場所なくなっちゃったよと。全てが仕切りなおしになっちゃった。
それで探したのが中葛西の物件。駅から離れてるし、住宅地だし、みんなから反対されましたよ。でも一人でやるつもりだったんで、まぁゆっくり始めようと。始めてみたら住宅地だったからニーズがあったのかな? 駅前もいいけど競争激しいですからね。おかげさまで初めから繁盛していました。奥さんも途中から手伝ってくれるようになって。
-そして5年後にここ、まつ蔵精肉店ですね。
そうです。「まつ蔵」というのは、凄く美味しかったとんかつ店の名前の一部を拝借しました(笑)。
-精肉店を出そうと思ったのはなぜですか? 魚屋もそうだけど、大抵は家族経営ですよね。この時代に親から継ぐのではなくて自分で始める人ってそんなにいないと思うのですが。
いやぁいないでしょう(笑)。最初やるっていったらみんな「大丈夫?」って。なんだろう、やっぱり作業が好きなんですよ。肉を切る作業が。それに精肉店って本当に無くなってるから、きちんと肉並べて、対面でしっかり売る店を出してみたかった。
-この南砂団地に出店を決めたのは?
商店街の中のテナントを探し回りました。そしたら公社のホームページでここを見つけて、さっそく見に行って。驚きましたよ。こんなに大きな団地なんだ、だったら人もいるし、ちょうど精肉店も無いし。本当に偶然なんですが、ここ、もとは精肉店だったんですよね。
-お店のコンセプトは?
普段使いととっておきの両方を提供できる店、というところかな…デパ地下と町の肉屋の中間のような立ち位置を目指しています。当店は団地にありますから、今日食べるためにお求めになるお客さまが殆どです。毎日ステーキすき焼きという人はいないでしょうから、お求めやすい切り落としなども提供しつつ、綺麗に一枚ずつシートを敷いた肉も並べて、幅広いニーズにお応えするようにしています。コストパフォーマンスもぎりぎりまで追及していますし。分かってくださる方は「この価格でいいの?」とおっしゃいますね。
-売場を拝見してもお肉へのこだわりが感じられます。
問屋は元勤務していた精肉店からの付き合いです。やはり目利きが違うんですよね。自分の肉へのこだわりは、牛に関してはほぼ雌牛を使っているということかな。脂が柔らかいというか、融点が違うんですよ。切っているところからも脂が解けているものもある。そういうものは胃もたれがしないんです。肉も甘味があってやっぱり旨いんですよ。豚は精肉店時代に一番旨いと思ったチェリーポークを選んでいます。脂の質がいいし、味が安定していると思っています。
精肉店に専念するため、焼肉店の暖簾も売却しました。そのうちまたやってみたいという気持ちはありますけどね。
-肉のプロフェッショナルにお聞きしますが、一番おいしい肉の焼き方は?
自分はよく焼くのが好きですけどね。強火で表面が焦げ目ほど焼いて、中は赤く残るようなのが。でも結局は自分が美味しいと思う焼き方なんじゃないですか? よく焼くのが好きな方もいるし、レアがお好きな方もいる。正解はないと思います。
調理の仕方としては、例えば牛肉の薄切りなら、焼いてネギと一緒にポン酢にくぐらせるのがさっぱりと美味しく召し上がれると思いますね。ステーキならばわさび醤油をぜひお試しいただきたいです。
-ショーウインドーには肉のブロックも時折陳列されてますね。
最近ステーキのカットオーダーが多くなりました。日曜に若いファミリーからのリクエストが多いです。これは予想外でしたが、気軽に頼んでいただけるのは本当に嬉しいですね。
塊を店頭に並べていると、何かご希望がありそうなご様子なんだけれど、ためらっていらっしゃる方がいるんですよね。いくらぐらいになっちゃうんだろうとか、余計なことを頼むと手間かなと気をつかわれるのか。ぜひご予算や作りたいメニューなどをご遠慮なくお聞かせいただければ。他のお店でお買い物している間に、ご希望の形にカットしてご用意できますし。もちろん売場にブロックが無くても奥にはありますから、お気軽にお声をかけていただきたいですね。
(実際のオーダーを実写!左はロースステーキ約200g、右はモモステーキ約150g。「これから夏になると、特に若い方からはモモステーキのリクエストが多くなりますね。対してロースステーキは高齢のお客様にリピート率が高いように思います(松井さん)」