隠れ家フレンチ「Nickel (ニケル)」のこれから。

飲食店棟の一番奥。団地内の通り道からも見えないロケーション。

ここにカジュアルフレンチの出店希望があると聞いた時は、商店仲間はみな驚いたものです。

よほど自信があるのか、それともただの変わり者か? (笑)

オープンは2018年5月。オーナーシェフ兼ソムリエの大岩さんを突撃!(聴き手: 村上ハルミ/鮮魚村上)

 

(村上)- ここの前は、葛西でワイン食堂を経営されていたんですよね。

(大岩) そうです。2005年に開店、2016年迄ですから11年営業していたことになります。TVにも出演したりして、そこそこ繁盛していました。

-閉店した理由は?

怪我です。人材不足から、最後の数年間は料理担当は私一人だったんです。当時のお店は45席。ニケルが24席ですから、ほぼ倍ですね。もう、一人で厨房を守るキャパじゃないですよ、普通は料理人2~3人。それでもっと小さな店にしようと、移転先を探していた矢先に右手を負傷してしまいました。医者からは全治1年と言われて…。

-その後は?

怪我をしたのが11月。翌月には店を閉めました。それからリハビリです。ようやくギブスが取れ、このまま何もしないのもと、日本一周の旅に出ることにしたんです。

-日本一周?

そう。若い頃はこれでも、フランスやスペインなどをバックパックで旅行したんですよ。あとアジア。タイとかミャンマーとか。

海外は色々回っているのに、よく考えたら日本国内のことはほとんど知らない。運転は出来るくらいに回復したので、車中泊できるように車をワゴンに買い換えました。2017年の3月から7月まで、5ヶ月かけて日本中を周りましたね。素晴らしい食材、生産者との出会いも沢山あって。怪我も順調に回復し、よし、また店やろうと、物件探しを始めました。

-今の物件を見つけたのはいつ?

12月頃だったかな? ダイニングが中核ではあるけれど、テイクアウトやお弁当販売も視野にいれていました。中食は、これからの時代に絶対必要な要素ですよね。なので、広い調理場を確保できるのが必須条件でした。ここは倉庫も使えるし。

-すぐここに入ろうと思いました?

求心力のある新しいお店、ガハハビールさんやまつ藏精肉店さんの存在は大きかったですね。後に続いていける、背中を押されているような気がしました。

-ここ、かなり目立たないというか、端っこも端っこな物件なんですが、隠れ家を狙っていた?

いや(笑)。正直ロケーションはあまり気にしなかったですね。隠れ家というのは後付けであって。フレンチって、間違いなくお客さまは目指して来店してくるはずなんです。たまたま店の前を通り過ぎて、「あ、フレンチだ、じゃここで夕飯にしよう」っていう人はそうそういないと思うんですよ。

-新店オープンは葛西のお客様にも伝えたんですか?

それが全然。葛西を離れて再スタートを切ったわけですし、お客様が覚えている味を完全に再現できるか不安な部分もありました。

料理人にとって、それこそ1ヶ月休んだって火入れのタイミングとか、勘が鈍るんです。それが1年半のブランクですから。

だから個人のSNSアカウントにも、店の情報は載せなかったんですが、ツイートから探り当てて来てくれたお客様もいました。

-ありがたいですよね。

本当にありがたいです。予約の時は何もおっしゃらず、ご来店されてからええっ!何で判ったの?みたいな(笑)。今まで10組以上探し出していただいてます。

-こないだ夜伺った時も葛西時代のお客様がいらっしゃいましたよね。「葛西の時はマスターとは話したこと無かった」なんておっしゃってて。

そうなんですよ。お帰りになる時はご挨拶したりしても、ほとんど厨房にこもってましたからね。

ただ今は厨房もホールも私一人でやってますので、なかなかお話できないですけどね。

(メニューの一例。「軽いお集まりのご予約には、こうした前菜盛合せを先にご用意することが多いですね(大岩さん)」)

 

-大岩さんだから言うけど、この店のお品書きってちょっと素っ気ないですよね。コースメニューの説明でも、ただ「前菜盛合せ」とだけ書いてある(笑)。手間かけてるんだから、料理名だけじゃなくてもっと説明加えたらどうですか?

うーん。アピールが下手なところはあるかも。でも、分からないところこそ、訊いてもらいたいなと思うし。あまり能書きを並べるのも、お客様の食べたい気分を邪魔するというか。

四谷のフレンチで調理の修業をした後、ソムリエの資格を取って、銀座のホテルで働いていたんです。ソムリエの説明って絶対になっちゃうんですよ。お客様がワインをお選びになるのをサポートするのがソムリエの役割のはずなのに、バッジをつけていると「任せる」となってしまう。だから私、ソムリエのバッジを隠してたんです。するとワインの説明をしても「君、ソムリエを呼んでくれ」と。ただの給仕では信用できないというわけですね。だから服の中からバッジを取り出して…。

-水戸黄門みたい…イヤなソムリエだね(笑)。

メニューも同じで、シェフの私が食べてもらいたいものじゃなくて、お客様に選んでいただきたいんです。

お客様が選んだ料理を、ベストの状態でお出しするのが私の仕事です。だから料理や店の綺麗な写真やメニューの能書きで、お客様のご選択を迷わせたくないんですね。

-なるほど。

お客さまの期待を超えた料理を提供できれば、きっとまたご来店いただけて、そしてまたお客様が選んだ料理を真剣勝負で作る。そうやってお客様との信頼関係が築けるのかなと思うんですね。

-ここは自家製スイーツも評判ですよね。特にプリンの美味しさにはノックアウトされました。

神奈川の平飼い有精卵「さがみっこ」のプリンですね。おかげさまで好評で、作るのが間に合わないほどです。「あれっ、ウチってプリン屋だっけ?」なんて思うくらい(笑)。でも仕込みもしなくてはならないので悩ましくもあります。

-今は色々と実験段階、というところでしょうか。

アイデアはあれど、一人営業ゆえに準備の時間がなかなか…でもそろそろ仕掛けていきますよ。第一弾として、葛西でも好評だったサービスを再開します。ホームページやTwitterでも情報発信していきたいと思ってます!

(客席奥の半個室。仕切りのガラスは古民家で使われていたもの。独特の歪みが温かみがあります。)
[RESTAURANT DATA]
Nickel wine and delica (ニケル ワイン アンド デリカ)
東京都江東区南砂2-3-16
TEL: 03-6666-6618
営業時間: 11:30~21:30 L.O.
定休日: 水曜・隔週火曜
支払方法: ディナーのみクレジットカード可